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高松高等裁判所 昭和34年(ラ)75号 決定 1960年2月10日

抗告人 丸岡博

主文

原審判を取消す。

抗告人の名「博」を「浩史」と変更することを許可する。

理由

本件抗告の趣旨は、原審判はこれを取消し本件を高松家庭裁判所観音寺支部に差戻すとの裁判を求めるというにあり、その理由とするところは、抗告人の居住している三野村大字吉津には抗告人と同姓同名の者があつて従前から抗告人に対する郵便物等が誤達されたことが屡々あつたし、また右の者は現在は中学生であつて同人に対する郵便物等も数少いとはいえ、将来成人するにつれてその数も増加するから同人に対する郵便物が抗告人に誤達される機会も多くなる筈である。抗告人はこのように社会生活上現在も不利、不便を感じていると同時に将来ますます不便を感じるに至る事情にある。したがつて抗告人は名の変更をする必要があるわけである。それゆえ、抗告人の名の変更(抗告人の名「博」を「浩史」と変更すること。)許可の申立は認容されるべきであるに拘らず、これを却下した原審判は不当である。殊に、原裁判所が抗告人に対してなした右審判書の送達も一度は前記同姓同名の者に誤配されたような事情にある。このことから見ても原審判の不当なることは明らかであるから、その取消を求める。というにある。よつて按ずるに、一件記録に徴すれば、抗告人は居村の農業協同組合の事務員であるが、抗告人と同姓同名の中学生が抗告人の肩書住所と同村同字に居住している関係で、抗告人に対する郵便物が誤配されて入手の選れることが屡々あつて抗告人としては不便を感じていたし、殊に本件に関する原裁判所の審判書が右中学生に誤配されて永らく抗告人の手許に届かなかつた事実もあつて抗告人にとつて著しい支障をきたしたことを認めるに足り、且右中学生が成長するにつれて同人宛の郵便物等が増加することは想像に難くないから抗告人の右のような社会生活上の不便、不利は将来一層大きくなるものと認めざるを得ない。右のような事情にある以上、抗告人がその名を変更することは正当な理由があると認めるのが相当である。そして変更後の名を「浩史」とすることについては何等の支障は認められないのであるから本件名の変更許可の申立は認容されるべきであるに拘らず、これを却下した原審判は不当であるから、右審判は取消すべきである。そして本件については当裁判所がみずから審判に代わる裁判をするのを相当と認めるから、家事審判規則第一九条第二項に則り主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 石丸友二郎 裁判官 安芸修 裁判官 荻田健治郎)

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